ネタバレありますご注意下さい
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三月だというのに降る雨は雪になりそうな程冷たく、木々を芽吹かせるどころか新芽を凍らせてしまいそうだった。一昨日までは春を感じさせる陽気だっただけに、今日の鉛色の空は春の色彩まで塗りつぶしてしまいそうだ。
「雨やまないですね」
ぼんやりと空を見上げていたら、横から黒い頭がひょこりと出てきた。窓の前に彼のスペースを作ってやるべく脇にずれてやる。
「昨日から降りっぱなしですよ」
「だな」
「さむー」
新八はその場でとんとんと足踏みしながら掌を擦り合わせている。なんだか小さな子供みたいなその仕草が保護欲を掻き立てたのか、寒いので本能的に他人の熱を欲したのか、とにかく下心はなかったと弁解する――銀時は横の頭を抱え込む形で引き寄せた。
「おわっ」
そこにいやらしい温度はなく、すっかりうちのにおいのする新八の単衣やその布のさらさらとした冷たさが心地好い。
「銀さんあんまあったかくない」
「ひどっ!心は温かいのに!」
「はいはい僕コタツ行きますが」
「俺も行きますよ!」
「何で丁寧口調なんですか」
くっついたまま笑う新八の音が近くて、笑う肩の動きが掌に伝わってきてああ、幸せだなとか天気とは裏腹に柔らかい気持ちになる。
「雨ですが午後は買い物行かないと…今日午後から売り出しがあるんですよ」
「はいよ」
銀時の返事に、同行する意思を汲み取った新八はじゃあとりあえずお茶でも飲みながらチラシ見ますかーと歩き出す。その後ろ頭に銀時がぽてぽて付いて行く。
また頭を撫でたくなるが、台所に向かうべく新八が曲がったせいで右手は空を掻いた。仕方ないので居間のテーブル上のチラシ群を拾って和室に向かう。
「お、大江戸ドラッグでドッグフード安い」
「マジですか」
台所から応える新八と適当にやりとりしながら、銀時は何の甘いもん買って貰おっかな~と算段していた。
2ケツで原チャ出して隣に並んでカゴ持ってスーパー歩いて。
ここ何年かのそんなささやかな日常は、曇天の中飛び出して行くのも悪くないと思えるほど、既に銀時の心の大半を捕らえているのだった。
----------------------------
雨でびしょ濡れとか雷ギャーとかいちばん楽しんでいるのは銀さんな気がする…
神楽が遊びに行ってる日は、二人が買い物帰りに神楽を拾って帰ります。待ち合わせとかしないけど公園とか河川敷とかでなんとなく会えちゃうという。以上妄想でした。
「雨やまないですね」
ぼんやりと空を見上げていたら、横から黒い頭がひょこりと出てきた。窓の前に彼のスペースを作ってやるべく脇にずれてやる。
「昨日から降りっぱなしですよ」
「だな」
「さむー」
新八はその場でとんとんと足踏みしながら掌を擦り合わせている。なんだか小さな子供みたいなその仕草が保護欲を掻き立てたのか、寒いので本能的に他人の熱を欲したのか、とにかく下心はなかったと弁解する――銀時は横の頭を抱え込む形で引き寄せた。
「おわっ」
そこにいやらしい温度はなく、すっかりうちのにおいのする新八の単衣やその布のさらさらとした冷たさが心地好い。
「銀さんあんまあったかくない」
「ひどっ!心は温かいのに!」
「はいはい僕コタツ行きますが」
「俺も行きますよ!」
「何で丁寧口調なんですか」
くっついたまま笑う新八の音が近くて、笑う肩の動きが掌に伝わってきてああ、幸せだなとか天気とは裏腹に柔らかい気持ちになる。
「雨ですが午後は買い物行かないと…今日午後から売り出しがあるんですよ」
「はいよ」
銀時の返事に、同行する意思を汲み取った新八はじゃあとりあえずお茶でも飲みながらチラシ見ますかーと歩き出す。その後ろ頭に銀時がぽてぽて付いて行く。
また頭を撫でたくなるが、台所に向かうべく新八が曲がったせいで右手は空を掻いた。仕方ないので居間のテーブル上のチラシ群を拾って和室に向かう。
「お、大江戸ドラッグでドッグフード安い」
「マジですか」
台所から応える新八と適当にやりとりしながら、銀時は何の甘いもん買って貰おっかな~と算段していた。
2ケツで原チャ出して隣に並んでカゴ持ってスーパー歩いて。
ここ何年かのそんなささやかな日常は、曇天の中飛び出して行くのも悪くないと思えるほど、既に銀時の心の大半を捕らえているのだった。
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雨でびしょ濡れとか雷ギャーとかいちばん楽しんでいるのは銀さんな気がする…
神楽が遊びに行ってる日は、二人が買い物帰りに神楽を拾って帰ります。待ち合わせとかしないけど公園とか河川敷とかでなんとなく会えちゃうという。以上妄想でした。
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春始めの空とグラウンド
「はー…あったけえなーあ」
明日少年野球団の試合があるとかで、河原にある小さなグラウンドで石やらゴミやら拾うのが今日の万事屋の仕事だ。仕事っつうより源外のじーさんとこで会ったじいさんの息子?がその野球チームのコーチだか監督だかで(話が長かったのであんまりよく覚えていない)、手伝いを頼まれたのだった。
「日向ぼっこしてないで石拾う!明日子供さんが怪我したら困るでしょー」
グラウンド脇にある風雨に曝されてかなりくたびれたベンチ。そこに座ってぼやぼやする銀時に、少し離れた所から新八が文句を言う。
それに銀時はお前だって子供さんだろーがまだ坊主頭でボール追っかけるような歳だろーが、と、聞こえるはずのない距離の新八に呟いた。
そして新八の肩から背中、今日はTシャツにワークパンツなのでその線がいつもより分かりやすいが、それを無意識に眺めていて項垂れた。
ああ、こんなにうららかな小春日和に頭がピンクだよ…そんな子供さんになにしちゃってんのかなあ、とため息を吐いた。
「大人なのになあ」
「なにが?」
銀時の呟きに軽やかな声が問い掛けた。ベンチ脇にいつの間にやら立っていたのは神楽だ。あっつい、とTシャツの腹を捲り上げて顔を拭う。
「腹を出すなよ…女の子だろーが」
保護者的な小言も、違うことを考えていたので絞り出したような声になり、神楽は呆れたように返した。
「大人ってなにが?まさか銀ちゃんがアルか」
「まさかって何よ。立派な二十数歳児に向かって」
「大人は少年眺めて『ああ…』とか呟かねーヨ」
「ぶっ」
声に出てんだヨ、と浅くため息を交えて言われ、銀時はますます頭を抱えるしかなかった。
「すいません…何つーかすいません…」
「男はいつまでも青臭いしガキアルな」
「神楽さああん大人にならないで!急に大人びないでっ」
「帰りにアイス!」
言い残して新八の元に駆けていく神楽。しーんぱちいっ!と軽く踏み込んで、新八の腰にしがみつく。驚いた新八はよろけながらも神楽に腕を回されるままだ。
その光景に、うあっ腰、じゃなくてなにしてんだ神楽っ!と思わず立ち上がった銀時は勢い余ってボロのベンチに突っかかって、盛大にコケた。
「…うわ、何やってんのあの人」
「馬鹿がいるアル」
いだだだ、と座り込んで足をさする銀時に、軽い足音が近付いてくる。
顔を上げると、薄い青空の中新八がこちらを見下ろしていた。
「なにやってんです。釘とか引っ掛けてないですか?」
ほら、と差し出された一回り小さな手に自分の手を重ねる。ふわふわとした春の陽射しは暖かいやら落ち着かないやらで、感じ慣れた新八の手のひらの温かさも戸惑ってしまう。
「コケた…」
「見ればわかりますよ」
「うーん」
手を引かれる温度に頭がついていかない。ぐんっと新八の手を引っ張って、近くに来た顔を自分の肩口に押し付けて、さっきの神楽が羨ましかったので彼女のように新八の腰に腕を回す。
新八の頭越し、少し離れた場所に心底呆れた顔の神楽が見えた。その顔にしょうがねえよ俺ガキだから!と心中で言い訳をして、新八の耳下あたりに短くキスをする。触れるだけの、慈しむような子供にするような柔らかい触れ合いだ。
「ヒィ何すんですか!」
「『ヒィ!』って…」
「もーなんなんすか!立ちなよ!」
腰に回された手を逃れ、銀時の肩を支えにしてさっさと立ち上がる新八に、銀時はそれでも手を繋いだまま離そうとしない。
余韻に浸るように自分の唇を拭う銀時の仕草に、新八は分かりやすく赤面する。
「馬鹿すぎるよ!」
「知ってるよ」
そして相変わらず呆れてこちらを眺めている神楽に、銀時はぐっ!と親指を立ててみせた。
その仕草に彼女はやれやれといった風に肩を竦め、男らに聞こえるように大きな声で返す。
「馬鹿アル」
投げられた少女の言葉にもめげず銀時は相変わらずキメ顔。
新八はそのキメ顔に、ゴミ袋を投げつけるに至った。
----------------------------
休日に河原沿いや学校グラウンドで試合してる少年野球とかが眩しいです…
初春は空が薄いですよねーあのふわふわ不安な感覚が気持ちいいような具合悪いような不思議なかんじです。
「はー…あったけえなーあ」
明日少年野球団の試合があるとかで、河原にある小さなグラウンドで石やらゴミやら拾うのが今日の万事屋の仕事だ。仕事っつうより源外のじーさんとこで会ったじいさんの息子?がその野球チームのコーチだか監督だかで(話が長かったのであんまりよく覚えていない)、手伝いを頼まれたのだった。
「日向ぼっこしてないで石拾う!明日子供さんが怪我したら困るでしょー」
グラウンド脇にある風雨に曝されてかなりくたびれたベンチ。そこに座ってぼやぼやする銀時に、少し離れた所から新八が文句を言う。
それに銀時はお前だって子供さんだろーがまだ坊主頭でボール追っかけるような歳だろーが、と、聞こえるはずのない距離の新八に呟いた。
そして新八の肩から背中、今日はTシャツにワークパンツなのでその線がいつもより分かりやすいが、それを無意識に眺めていて項垂れた。
ああ、こんなにうららかな小春日和に頭がピンクだよ…そんな子供さんになにしちゃってんのかなあ、とため息を吐いた。
「大人なのになあ」
「なにが?」
銀時の呟きに軽やかな声が問い掛けた。ベンチ脇にいつの間にやら立っていたのは神楽だ。あっつい、とTシャツの腹を捲り上げて顔を拭う。
「腹を出すなよ…女の子だろーが」
保護者的な小言も、違うことを考えていたので絞り出したような声になり、神楽は呆れたように返した。
「大人ってなにが?まさか銀ちゃんがアルか」
「まさかって何よ。立派な二十数歳児に向かって」
「大人は少年眺めて『ああ…』とか呟かねーヨ」
「ぶっ」
声に出てんだヨ、と浅くため息を交えて言われ、銀時はますます頭を抱えるしかなかった。
「すいません…何つーかすいません…」
「男はいつまでも青臭いしガキアルな」
「神楽さああん大人にならないで!急に大人びないでっ」
「帰りにアイス!」
言い残して新八の元に駆けていく神楽。しーんぱちいっ!と軽く踏み込んで、新八の腰にしがみつく。驚いた新八はよろけながらも神楽に腕を回されるままだ。
その光景に、うあっ腰、じゃなくてなにしてんだ神楽っ!と思わず立ち上がった銀時は勢い余ってボロのベンチに突っかかって、盛大にコケた。
「…うわ、何やってんのあの人」
「馬鹿がいるアル」
いだだだ、と座り込んで足をさする銀時に、軽い足音が近付いてくる。
顔を上げると、薄い青空の中新八がこちらを見下ろしていた。
「なにやってんです。釘とか引っ掛けてないですか?」
ほら、と差し出された一回り小さな手に自分の手を重ねる。ふわふわとした春の陽射しは暖かいやら落ち着かないやらで、感じ慣れた新八の手のひらの温かさも戸惑ってしまう。
「コケた…」
「見ればわかりますよ」
「うーん」
手を引かれる温度に頭がついていかない。ぐんっと新八の手を引っ張って、近くに来た顔を自分の肩口に押し付けて、さっきの神楽が羨ましかったので彼女のように新八の腰に腕を回す。
新八の頭越し、少し離れた場所に心底呆れた顔の神楽が見えた。その顔にしょうがねえよ俺ガキだから!と心中で言い訳をして、新八の耳下あたりに短くキスをする。触れるだけの、慈しむような子供にするような柔らかい触れ合いだ。
「ヒィ何すんですか!」
「『ヒィ!』って…」
「もーなんなんすか!立ちなよ!」
腰に回された手を逃れ、銀時の肩を支えにしてさっさと立ち上がる新八に、銀時はそれでも手を繋いだまま離そうとしない。
余韻に浸るように自分の唇を拭う銀時の仕草に、新八は分かりやすく赤面する。
「馬鹿すぎるよ!」
「知ってるよ」
そして相変わらず呆れてこちらを眺めている神楽に、銀時はぐっ!と親指を立ててみせた。
その仕草に彼女はやれやれといった風に肩を竦め、男らに聞こえるように大きな声で返す。
「馬鹿アル」
投げられた少女の言葉にもめげず銀時は相変わらずキメ顔。
新八はそのキメ顔に、ゴミ袋を投げつけるに至った。
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休日に河原沿いや学校グラウンドで試合してる少年野球とかが眩しいです…
初春は空が薄いですよねーあのふわふわ不安な感覚が気持ちいいような具合悪いような不思議なかんじです。
金花糖
「……わ」
夕飯の買い出しの帰り道。神楽にねだられて一緒に入った駄菓子屋で、新八は小さな砂糖菓子に目を留めた。
それは懐かしい菓子達の中にあって、一際鮮やかな緋で色つけがなされている。
セロハン越しに見るすべすべとした表面に、新八はそれが可愛くなってしまって手に取った。
「金魚の金花糖だ」
砂糖菓子は親指程の小さな金魚の形をしていて、型が粗いのかひとつひとつ形や色の流れが微妙に違う。
「あ、この子可愛い」
新八は緋色の大人しい、しかし目の黒が少し大きい金魚を手に取った。こちらを見るまんまるい目にくすりと笑う。
「新八ィ、酢昆布と黒糖麩菓子……何してるアル?」
「いや、これ可愛いなって」
「おーおー見掛けの華やかさに騙されて、これだから男は」
「こういう砂糖菓子のこと、『金花糖』って言うんだよ。…そういう神楽ちゃんは黒いもんばっかだね」
「酢昆布なめんなヨ。あと黒玉もネ」
「ほんと黒いね…」
はいはい、と神楽に返した新八だが、手には件の金魚を持ったままだ。
「買うアルか?」
「ん?うん、そうしよっかな。四つ…は数悪いから五つ」
「銀ちゃんに?」
「え」
にやりとして訊く神楽に、新八は照れを隠したような呆れたような顔で言い返す。
「何で銀さん?」
「だって砂糖菓子なんて。銀ちゃんの主食アル」
「あの人はね、砂糖なんて摂取しなくていいの。糖尿なんだから」
「ふうん?」
神楽は笑って、掌いっぱいに掴んだ駄菓子を新八の持つ小さな籠に入れた。もうちょっと見てくるから待つアル、と言って狭い店内を行ったり来たりする。
「そろそろ帰らないと夕飯になっちゃうからねー」
店内いっぱいのお菓子にそわそわ揺れる薄紅色の頭に言いながら、新八は残り四つの金魚を選びにかかった。
「おー帰ったぞ~」
日が沈んでしばらくした頃、緩慢に玄関が開いた。居間にいた神楽が返事をする。
「お帰りヨー」
「さみいな…コタツコタツ」
銀時は台所にいる新八に「ただいま」と声をかけ、和室のコタツへ足をつっこむ。
うあ、コタツ入ってねえじゃんとごちたが、天板の篭の中、みかんに混じった金魚の菓子に気づく。
「お、なにこれ。糖分だ」
「食べていいけど一人一個ですよ」
夕飯の支度をする新八が、コタツ天板を拭きながら言う。
「一人一個?五つあるじゃん。うちいつから五人家族?……はっお前もしかしてついに出来」
「何が出来るかァアア!四つは数が悪いから!そんだけです!」
台拭きを顔面に食らい、男前になった銀時はそれでも菓子を離さず、赤い金魚を掌で游がせる。
「こういう砂糖菓子、ガキん頃好きだったな」
「へえ」
「白いやつより、赤とか桃色とか色がついてるやつのほーが美味い気がすんの。ガキって馬鹿だよなあ」
「ああ、そうですよねぇ」
「男は馬鹿アルな~。断然黒アル。黒糖の深みとコクが…」
「年寄りくせえよ」
炬燵に入ってきた神楽も、やはり金魚をつつきながら話している。
「銀さん子供の頃から甘いの好きだったんですね」
「うん」
「銀ちゃんの幼い頃はな新八、甘いものつったら砂糖くらいしかない時代だったアルヨ…」
「おい俺がお前らといくつ違うと思ってんだ失礼な!15も離れてねえだろが!昔からあるよこんなの」
(あ、なんか)
甘いもの談義を始めた銀時と神楽の様子を見ながら、新八は少し笑った。
(昔同じ物を見てたってことが……嬉しいもんだな)
セロハンをぺりぺりと剥がし、銀時が口に入れたのは、新八が最初に手に取った緋色の大人しいそれだった。
銀時がそれを選んだのは偶然か、それとも顔を見て選んだのか。そんな一致も嬉しくて、嬉しいという感情がふわふわと収まりが悪くて、新八は誤魔化すように台拭きを畳み直した。
「これ元は縁起菓子ってゆーよな」
「へえ、通りで…いいことある訳ですね」
「?」
銀時はころころと金魚を口の中で遊ばせながら、不思議そうな顔をする。
(まだ他にも何か知る事が出来るなら)
「なんかいいことあったの?」
(嬉しいな)
「おーい新ちゃん?」
(まだ先は長いし、ゆっくり)
「……新八くんニヤニヤしてきもちわるい」
「何とでも。あと、もうご飯ですからね」
二つ目の金魚を口に運ぼうとする銀時を制止し、新八は台所へ立つ。
甘い甘い金魚の、自分はどれを選ぼうか。考えながら、味噌汁をよそいにかかった。
---------------------------
春っぽさ!を!出したかっ…た…。駄菓子屋にポピュラーにあるもんなのかは分かりません金花糖。色々呼び名が違うみたい?
名前がかわいいですよねー金花糖。
「……わ」
夕飯の買い出しの帰り道。神楽にねだられて一緒に入った駄菓子屋で、新八は小さな砂糖菓子に目を留めた。
それは懐かしい菓子達の中にあって、一際鮮やかな緋で色つけがなされている。
セロハン越しに見るすべすべとした表面に、新八はそれが可愛くなってしまって手に取った。
「金魚の金花糖だ」
砂糖菓子は親指程の小さな金魚の形をしていて、型が粗いのかひとつひとつ形や色の流れが微妙に違う。
「あ、この子可愛い」
新八は緋色の大人しい、しかし目の黒が少し大きい金魚を手に取った。こちらを見るまんまるい目にくすりと笑う。
「新八ィ、酢昆布と黒糖麩菓子……何してるアル?」
「いや、これ可愛いなって」
「おーおー見掛けの華やかさに騙されて、これだから男は」
「こういう砂糖菓子のこと、『金花糖』って言うんだよ。…そういう神楽ちゃんは黒いもんばっかだね」
「酢昆布なめんなヨ。あと黒玉もネ」
「ほんと黒いね…」
はいはい、と神楽に返した新八だが、手には件の金魚を持ったままだ。
「買うアルか?」
「ん?うん、そうしよっかな。四つ…は数悪いから五つ」
「銀ちゃんに?」
「え」
にやりとして訊く神楽に、新八は照れを隠したような呆れたような顔で言い返す。
「何で銀さん?」
「だって砂糖菓子なんて。銀ちゃんの主食アル」
「あの人はね、砂糖なんて摂取しなくていいの。糖尿なんだから」
「ふうん?」
神楽は笑って、掌いっぱいに掴んだ駄菓子を新八の持つ小さな籠に入れた。もうちょっと見てくるから待つアル、と言って狭い店内を行ったり来たりする。
「そろそろ帰らないと夕飯になっちゃうからねー」
店内いっぱいのお菓子にそわそわ揺れる薄紅色の頭に言いながら、新八は残り四つの金魚を選びにかかった。
「おー帰ったぞ~」
日が沈んでしばらくした頃、緩慢に玄関が開いた。居間にいた神楽が返事をする。
「お帰りヨー」
「さみいな…コタツコタツ」
銀時は台所にいる新八に「ただいま」と声をかけ、和室のコタツへ足をつっこむ。
うあ、コタツ入ってねえじゃんとごちたが、天板の篭の中、みかんに混じった金魚の菓子に気づく。
「お、なにこれ。糖分だ」
「食べていいけど一人一個ですよ」
夕飯の支度をする新八が、コタツ天板を拭きながら言う。
「一人一個?五つあるじゃん。うちいつから五人家族?……はっお前もしかしてついに出来」
「何が出来るかァアア!四つは数が悪いから!そんだけです!」
台拭きを顔面に食らい、男前になった銀時はそれでも菓子を離さず、赤い金魚を掌で游がせる。
「こういう砂糖菓子、ガキん頃好きだったな」
「へえ」
「白いやつより、赤とか桃色とか色がついてるやつのほーが美味い気がすんの。ガキって馬鹿だよなあ」
「ああ、そうですよねぇ」
「男は馬鹿アルな~。断然黒アル。黒糖の深みとコクが…」
「年寄りくせえよ」
炬燵に入ってきた神楽も、やはり金魚をつつきながら話している。
「銀さん子供の頃から甘いの好きだったんですね」
「うん」
「銀ちゃんの幼い頃はな新八、甘いものつったら砂糖くらいしかない時代だったアルヨ…」
「おい俺がお前らといくつ違うと思ってんだ失礼な!15も離れてねえだろが!昔からあるよこんなの」
(あ、なんか)
甘いもの談義を始めた銀時と神楽の様子を見ながら、新八は少し笑った。
(昔同じ物を見てたってことが……嬉しいもんだな)
セロハンをぺりぺりと剥がし、銀時が口に入れたのは、新八が最初に手に取った緋色の大人しいそれだった。
銀時がそれを選んだのは偶然か、それとも顔を見て選んだのか。そんな一致も嬉しくて、嬉しいという感情がふわふわと収まりが悪くて、新八は誤魔化すように台拭きを畳み直した。
「これ元は縁起菓子ってゆーよな」
「へえ、通りで…いいことある訳ですね」
「?」
銀時はころころと金魚を口の中で遊ばせながら、不思議そうな顔をする。
(まだ他にも何か知る事が出来るなら)
「なんかいいことあったの?」
(嬉しいな)
「おーい新ちゃん?」
(まだ先は長いし、ゆっくり)
「……新八くんニヤニヤしてきもちわるい」
「何とでも。あと、もうご飯ですからね」
二つ目の金魚を口に運ぼうとする銀時を制止し、新八は台所へ立つ。
甘い甘い金魚の、自分はどれを選ぼうか。考えながら、味噌汁をよそいにかかった。
---------------------------
春っぽさ!を!出したかっ…た…。駄菓子屋にポピュラーにあるもんなのかは分かりません金花糖。色々呼び名が違うみたい?
名前がかわいいですよねー金花糖。
